「鳥羽絵(とばえ)」
という言葉を聞いたことはありますでしょうか。
名前の字面だけだと、どんな絵なのか想像がつかないと思います。
実は、鳥羽絵の「鳥羽」は、鳥羽僧正という僧の名前。
そしてこの鳥羽僧正の名がついた鳥羽絵は、江戸時代にさかんに描かれた、不思議な人物図なのです!
点々で簡略化してあらわしたおどけた表情、とぼけた滑稽な動き、
そしてとっても長〜い手足。
これが、鳥羽絵における人物の大きな特徴です。
イラストは、江戸時代の鳥羽絵の絵本『鳥羽絵扇の的』の一部をうつしたものです。
基本情報
『鳥羽絵扇の的』(とばえおうぎのまと)
作者不詳
江戸時代 木版墨摺 三巻三冊
以下のデータベースで全文を閲覧することができます!
↓国立国会図書館デジタルコレクション『鳥羽絵扇の的 3巻』(国立国会本は、具体的な刊行年は不明)
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/2606327
※また、国書データベースには国会本以外の諸本の情報(画像は無し)をみることができます。
https://kokusho.nijl.ac.jp/work/48260?ln=ja
今回うつした箇所はこちら!
これは、「イワシの頭も信心から」ということわざを絵にしたもの。
このように鳥羽絵は、まちの人々の日常生活の他に、ことわざや故事などが題材となります。
後光が光るイワシの頭だけを前にして、数珠を持って祈りをささげる人々…
くずし字で描かれるセリフには(右から)「とうとや ありがたや」「ごかう(後光)がぴかぴかする」とあり、人々がありがたがっている様子が伝わってきます。
さて、「イワシの頭も信心から」の意味は、イワシの頭のような取るに足らないものでも、それを信仰する人にとっては大切なものになる、という事で、
信仰心の力の大きさや不思議さをたとえた言葉であると共に、つまらないものを頑なに信じる人を揶揄する言葉としても用いられるそうです。
これをふまえて鳥羽絵をみると、人物の滑稽な動きや表情、イワシにしてはあまりにも大きく仰々しく描かれている様子からは、
信仰心の不思議さをあらわすこともさることながら、どことなーくその様子を軽やかにあざけ笑う意味も混じっているように感じてしまいます…
ゆるく、だけどどこか鋭く、人間模様を描き出す。
鳥羽絵の魅力、ここにありです。
『鳥羽絵扇の的』は、他にも様々なことわざや、季節の年中行事の様子などがユーモラスに描かれていますので、是非チェックしてみてください!