日本美術の掛軸や屏風などで描かれる人物シリーズ。今回は、「虎渓三笑(こけいさんしょう)」について。

舞台は中国の廬山という山。ここには、虎渓という渓谷がありました。
慧遠(えおん)という僧は、この渓谷の奥の東林寺という寺にひっそりと暮らしていて、決して虎渓から先へは出ないと心に決めていました。
ある時、そんな慧遠の元に二人の友人、陶淵明(とうえんめい)と陸修静(りくしゅうせい)が訪れます。
三人の話は尽きず、帰りの見送りの際も話がはずみ、とうとう三人は、虎渓にかかる橋を知らぬ間に通り過ぎてしまいます。
頑なに出まいとしていた虎渓の先へ、あっさりと踏み入れてしまったことに気が付いた慧遠とその一行は、共に大笑いしてしまったとさ、というお話です。
なんとも平和な話で…
この故事は、物事に熱中しすぎて、他の物事を忘れてしまう様子をあらわす言葉として用いられたそうです。
中国、日本絵画の画題としても好まれ、あらゆる絵師が渓谷を背景に笑いあう三人の姿を描いています。
鍬形蕙斎『人物略画式』も、おそらく中央にいる僧形の人物が慧遠なのでしょう、慧遠はひときわ満面の笑顔で描かれています。
絵ではまだ橋の上ですが、橋を渡ってしばらくしたら、
「おいおい、橋渡っちゃったじゃんか、もぉ~」
と大笑いする姿が目に浮かんできます。
『人物略画式』の全文はこちらから読めます!
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/78674
※鍬形蕙斎『人物略画式』木版多色摺、一巻一冊、寛政11年(1799)、メトロポリタン美術館蔵、同館コレクションデータベースより、2025年5月25日
※イラストの『人物略画式』の模写は、メトロポリタン美術館本を元に行い、諸本を元に色付けしました。
【用語出典】
・「虎渓三笑」(学研 四字熟語辞典)
※ウェブページの閲覧日は2025年5月25日

