今回は、鍬形蕙斎の「略画式」シリーズに収録されるモチーフの中から、今の時期にぴったりな絵を紹介したいと思います。

10月20日。江戸時代頃より、旧暦のこの日は夷講(えびすこう)といって、七福神のひとつであるえびす神をまつる年中行事が全国各地で行われていました。
えびす神は、元々は豊漁の神様でしたが、七福神のひとつとなってからは、豊漁にくわえて商売繁盛や五穀豊穣をもたらす神様として、漁師、商人、農民と幅広い人々に信仰されていました。
こんな風に、烏帽子に釣り竿、そして大きな鯛を抱えた姿が印象的。↓

《蛭子図粉本》
原本:狩野常信 模者:不詳
寛政~文化6年頃(1789~1809頃)
紙本墨画淡彩 まくり一点
足立区立郷土博物館蔵(画像は足立区立郷土博物館収蔵資料データベースより・2023年10月16日現在)
皆さんも、一度は目にしたことがあると思います。
地域によって開催日や年間に開催される日数など違いがみられますが、特に10月20日に開催されるえびす講は、「商人えびす」という名前がつく地域もあるように、商売繁盛と深く関わるえびす講という印象です。
江戸でも、この日は商家は宴をひらき、神棚にはえびす様へお供え物をあげて、祭りを盛り上げたようです。
さて、鍬形蕙斎『略画苑』(りゃくがえん・1823序)に収録されるえびす講の絵はどうでしょうか。
神棚らしきところには、かなり筆が簡略化されていますが、えびす様とおぼしき像がしっかりまつられていますね。
そして神棚の手前には、大皿に載せた立派な鯛の尾頭付きを抱えた人物と、それをやんややんやと取り囲む人々がいます。
この鯛は、きっとえびす様の前にお供えされ、集まった人々はこれから宴を楽しむのでしょう。
大きくて立派な鯛は、えびす講の宴を盛り上げるぴったりの演出…いや、あるいは「肴」になってしまうかも…?
そんなことを考えながら、当時の盛り上がりに想いを馳せてみてはいかがでしょうか。
さて、最後に『略画苑』についてですが、これは「略画式」という絵手本シリーズが刊行されてから少し後に出版された「略画」の絵手本になります。
全文はこちら↓
https://www.metmuseum.org/art/collection/search/78681
※鍬形蕙斎『略画苑』一巻一冊、木版多色摺、文政6年序(1823・初版は文化5年・1808)、メトロポリタン美術館蔵、同館コレクションデータベースより、2025年5月25日現在
※イラストの『略画苑』の模写は、メトロポリタン美術館本を元に行い、諸本を元に色付けしました。
これもこれでとても面白い絵手本なので、『略画苑』の詳細は、また別の記事で取り上げたいなと思います。
【参考文献】
・菊池貴一郎 著 鈴木棠三 編、東洋文庫50『絵本江戸風俗往来』平凡社、1985(第20刷)
【用語出典】
・「夷講」(改訂新版 世界大百科事典)
https://kotobank.jp/word/-821006
・「えびす」(日本大百科全書・ニッポニカ)
https://kotobank.jp/word/-37175
※ウェブページの閲覧日は2025年5月25日

